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2011年10月 9日 (日)

地域開発におけるよそ者の役割 -国際開発学会口頭発表原稿‐

初出: 2011年10月9日 mixiコミュ 開発民俗学-地域共生の技法-

http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=65516943&comm_id=2498370

来る2011年11月26日の口頭発表の原稿(ドラフト)を以下に転載します。報告要旨ということで、A4の4枚とのことでテーマと文字数を調整しました。実際の口頭発表時間は20分、質疑応答の10分とあわせて合計30分なのですが、たぶんこの原稿だけだと全然時間がもたない!と思われます。

まあそれは別途プレゼン資料(パワーポイント)作成時に考えることにして、このレジュメにおいては、取り上げるプロジェクトとわたしの‘気づき’の概要を示すことにして、実際の発表では、このレジュメ以降の動きと、わたしが「開発民俗学」として考えていることを聴衆にぶつけていきたいと考えています。

こちらのトビも参照ください。

■ プロファイ(プロジェクト・フォーメーション、プロジェクト・ファインディング)における2,3の留意点・・・ 開発民俗学の視点から <講座>

http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=64344414&comm_id=2498370

なにか、ちょっとわくわくしてきました。

ぜひ、お気軽にコメントください。

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2011年10月8日作成 初稿

地域開発におけるよそ者の役割

-フィリピン・ビサヤ地方の灌漑システムの事例考察-

歩く仲間 地域活き生きアドバイザー 柴田 英知

キーワード: 開発援助、チェンジエージェント、よそ者の役割 、フィールドワーク、ファシリテーション

1.はじめに

近年、日本の政府開発援助(ODA)の開発途上国における施設(ハード)の建設のみならず、施設引渡し後の維持管理体制の確立の重要性が叫ばれており、実際に施設を運用する関係者(政府職員、受益住民など)に対するトレーニングや維持管理のための組織化支援をソフトコンポーネントとしてODAプロジェクトに事前に組み込むことが必須となっている。

これは、世界的な人権意識の高まり、そして自然環境問題への関心の高まりと、当然無関係ではない。特に住民参加や住民の視点に立った開発を求めるNGOなどの提言を受けて、ほぼ全ての開発援助機関において、例えば国際協力機構の「社会環境配慮ガイドライン」などに代表されるプロジェクトを受け入れる社会や自然環境についての事前アセスメントの整備とそれへの配慮の重要性が指摘されている。そもそも、受益者である住民重視の開発を目指す以上、ハードだけでないソフトの整備も必須であることは援助業界の常識となりつつある。

論者は1992年~2008年まで農業・地域開発が専門の開発コンサルタント会社に勤務し、開発調査、無償資金協力、有償資金協力など大小20件ほどの案件に携わってきた。その中で、特に1990年代から顕著化してきた住民参加型のプロジェクトのあり方について、政府開発援助(ODA)の一アクターである開発コンサルタントの立場で、主に社会開発という文脈で現実のODAプロジェクトにおける参加型開発と社会・自然環境配慮という観点より、プロジェクトのアクター分析とチェンジエージェントの重要性について論じたい。

ここでは2002年にJBICの水利組合に関する現地調査で出会ったフィリピン・パナイ島のイロイロ島にある国家灌漑施設事務所の女性の組織開発職員(IDO)を紹介する。

この事例の特筆すべき点は、プロジェクトを通じてIDO自体が、地元のNGOや外部のプロジェクト関係者より学び、ついにはIDO自体が他のドナーより資金を引き出すための”仕掛け”を考えるまでになったことであろう。

国家予算にとどまらない外国政府などの外部資金からの灌漑システムが主導を取った資金集めが可能になるほどIDOスタッフ及び水利組合員自体が能力を身につけたということに、NIA本部にも非常な期待感があると共に、他地域での復元可能性があるのかについての懸念も多い。今一度、彼女らIDO及び水利組合員の生の声に立ち返って成功要因を検討してみたい。

2.三人のマリアとサミカサ国家灌漑システム(NIS)

(1)灌漑システムの位置

サミカサ国家灌漑システム(サミカサNIS)は、フィリピンのビサヤ地方・パナイ島のイロイロ市の北方○kmに位置する○○川を水源とする国家灌漑システムである。(※1)このシステムは国家灌漑庁(NIA)の第5管区灌漑事務所の下、サミカサ国家灌漑システム事務所が直接の水利組合員との窓口となり、この灌漑システムを実際に利用する11の水利組合と合計○○の組合員によって運営されている。

この灌漑システムは、○○年に最初に取水口と用水路が建設されて以来、度重なるハードウェアとしての灌漑施設の増改修やソフトウェアとしての水利組合の強化トレーニングが実施されてきた。

プロジェクトの主なアクターとして①NIA本部派遣の灌漑エンジニア、②3人のマリア(IDO)、③農民グループの長、④青年海外協力隊で赴任した団員、⑤地元NGOの参画をあげたい。

以下に、2002年の調査時に3人のマリアの一人であるルース及び水利組合員に対しておこなったインタビューをもとにプロジェクトの概要を説明する。

(2)1990年~2000年頃までの国家灌漑システムを巡る活動

①1990年始め

アジア開発銀行の灌漑者組合(IA)強化プログラムが始まる。NIAの灌漑エンジニア1名が赴任する。(80年代にも世界銀行のプログラムがあったが自然消滅した経緯あり)

②1994~1996年

日本の無償資金協力の実施による灌漑施設の改修、収穫後処理施設の建設がおこなわれた。その結果として施設の改修によりハードウェアとしての灌漑効率の上昇が見られたが、収穫後処理施設については、維持管理費用が全くなかったため、実際に管理を担当するIDOが維持管理費用を捻出するのみ苦労した。

1994年頃に3人のマリアの一人、ルースの赴任による水利組合員の組織化が始まり、水利組合の長による協調体制の整備(11の水利組合)とそれらの連合を実現させた。具体的かつ顕著な成果をあげた活動は下記の2点である。

1) 話し合いによって水配分のルールをつくった。(乾季は上流のみ灌漑して下流地域は畑作を奨励)、

2)基礎資金積み立てによる所得向上への取り組み。(基礎資金を積み立てることにより、他の機関から融資をうけることができるようになる。最初は11人のIAリーダーだけで16,000ペソを基金として積み立て、のちに各農民に積み立ての輪を広げた)

(3)2000年頃からでてきた成果

①水利費の徴収率の向上

水利組合員のハードに対する信頼・感謝の気持ち及び実際の所得向上によって、水利費の支払い意欲が高まる。結果として、1)2002年のベスト水利組合の第2位としてNIA本部より表彰(第1位はCIS(地方灌漑システム)でシステムが違うので、国家灌漑システムではトップの成績)、2)水利費支払い率の上昇(25~30%から60%へ)、3)農業省からの融資(マイクロファイナンス)に対して償還率100%の達成、4)オーストラリア政府の地域開発資金のカウンターパートとなった。

②水利組合によるメリットと学び

IA会員の農民から挙げられたIA参加のメリットは下記のとおりである。

1)種を安く買うことができる。2)機械を貸してもらうことができる。3)融資を受けることができる。4)スタディーツアーに参加することができる。5)家の中にいてはわからない”新しい”情報にふれることができるなど。

特記すべき点として、IDOが女性を対象にしたプログラムを推進していることもあり、女性の参加率が35%にも達していることが上げられる。また半数の組合員が夫婦で参加している。(夫婦の場合でも、選挙権は1票)

③今後の課題

ただし今後の問題として、水路の上流と下流の組織の間での、水の絶対量の不足による灌漑栽培できる作物の違いによる所得格差(分配方法については5年程前に上流下流のIA間で同意すみ)については克服できておらず、それは水利費の支払い率が上流部では当初25~30%から60%に上がったのに対して下流部では25%に留まっているのに確実に示されている。

(4) その他のプロジェクトを取り巻く環境

忘れてはいけないのは、灌漑施設の補修と収穫後処理施設の日本の無償資金援助が大きなハード面でのステップとなり、ソフト面の動きとして、その後日本が収穫後処理施設の運営のため、青年海外協力隊3名を派遣して、彼らが地元農民と協力したこと(最後の一人は集会場の建設について日本の援助を申請して実現した。)などの外部からの働きかけも大きかったことである。 

それと平行して、フィリピン側としてNIA本部よりの灌漑エンジニアによる組合強化の継続的な働きかけ(10年間)、4年前にNGO出身の女性のルース。メンチら、3人のマリアがIDOとして、地元パナイ島のNGOスタッフの協力も得ながら、農民に対してファシリテートを行ったことが大きな成功の要因だと考えられる。

つまり様々な働きかけが継続的かつ重層的に行われたことについて、今一度留意を促したい。

2.考察と今後の課題

(1)IDOの特殊性について

まずIDOらの大学での専門は公共管理(Public Administration)で技術者ではないので、技術的な面については、NIAの灌漑エンジニアやNGOの協力に負っており、“ファシリテート”に徹したことも成功のポイントだと考えられる。

サミカサIAでの農民とのインタビューの中で、冗談で3人のマリアがいずれも独身で熱心に農民との協議に参加したこと(歌って踊ってなどのアフターファイブの付き合いも積極的にしたこと)や、彼女らIDOすべてが、地元の出身であること(以前の4名のIDOは、他の地方からきているものが多かった)がポイントであるといった指摘が農民自体より挙げられた。同時に、ルースの農民への働きかけは決して権威的でなく、冗談も交えて実にうまく彼らをのせて彼ら自身の意見を引き出しており、そのファシリテーション技術自体、非常に興味ぶかいものであった。

彼女らはいずれも年齢は若い(30歳前後)が、地元民であることと、インテリであることがうまく農民に受けいれられて、チェンジエージェントと成り得たと考えられる。

特に、彼女らは農民出身ではあるものの、今の立場は農民ではない)ということはポイントの一つである。逆に、同じ農民の立場であれば、あれほど思い切った提案ができるのか、またそれが農民から受けいれられるのかは不明である。つまり、なんからの異人性があったことの考察が必要である。

②チェンジエージェントとよそ者の役割について

わたしは、2000年前後から自分の知る政府開発援助の現場だけではなく開発NGOの活動や、開発教育や日本のまちづくりの勉強会において知見を広めてきたわけであるが、2001年に静岡県三島市で開かれた国際地域開発学会大会で学んだ「うまく地元民を引き込む”仕掛け”をするチェンジエージェントが重要」ということについて、そのよいサンプルをこの事例にみたような気がした。

チェンジエージェントとは、カタリスト(キャタリスト)ともいわれ、必ずしも全てがそうではないが、主に外部者としての役割と機能を持って、組織の内部と外部の橋渡しをする、いわば異質のものをつなぐという役割をもって組織に変革をもたらす人をいう。

この事例では、地元民でありながらチェンジエージェントたりえた3人のマリアを考察したが、全くのよそ者が水利組合の人間関係の内部に入り込めなかったのに対して、彼女たちは自分の中の外部性(異質性)をうまくオブラートにくるんで組織作りに貢献している。また逆にプロジェクトを取り巻く全くの外部者(よそ者)の意見や知見を、チェンジエージェントである彼女達が咀嚼して翻訳して、自らの活動に選択的に取り入れたという「学習する組織」の実践、そのものであったと言い換えることもできる。

以上を通じて、チェンジエージェントには地元に接点をもつ「土の人」と外部に足場を持つ「風の人」の二つの側面をあることを指摘したい。つまり「地元にある程度住みつづけることを前提とした人しかチェンジエージェントになれない」という訳ではなく、外部者(よそ者)は必然的にチェンジエージェントたりうる可能性があるということである。

しかしながら、外部者がチェンジエージェントとして機能するためには、矛盾する要素を重ね持つ必要がある。住民内部に仲間として受けいれられるための要素(この例では地元民)が必要でありながらも、現実には外部者としての立場(IDO)をあわせ持つ必要があるという二重性を兼ね備えなければならない。いわば自分自身の中に外部性を合わせもつ必要がある。この2つのペルソナを同時にもち続けることは、個人においては、かなり意識しないとできないことである。

つまり、外部者であるよそ者は、外部者に求められる機能について自覚的にあらねばならないと共に、自分がチェンジエージェントであるばかりでなく、プロジェクトのサイトごとにチェンジエージェントを発掘し育てるという意識が必要である。

最後に、ルースから言われたこんな言葉で発表を締めくくりたい。「ミスター柴田は、30%が日本人で、30%がフィリピン人、残りの40%は何人だかわからない」。つまり、自分の中の異人性を持ち続けることがチェンジエージェントの重要な要件の一つであるとわたしは、今、考えている。

(この項 了)

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