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2008年12月11日 (木)

第7講:日本における開発と“人類学(民族学)”と“民俗学”

7:日本における開発と“人類学(民族学)と“民俗学”

2005531日 着手 / 2007218日 完成

この講では、私の提唱する開発民俗学を、日本の学界のどこに同定するかについての試論を述べたい。まず二つの断りがある。これは、‘日本における’と前もって断わっている理由は、欧米の応用人類学(Applied Anthropology)の一部として確立しつつあるとみられる開発人類学(Development Anthropology)とは別のものとして本稿を扱うのではなく日本における‘二つのミンゾクガク’の範疇で、日本の研究者の問題意識と‘開発人類学’の現在を押さえておきたいからである。

1.日本における文化人類学の守備範囲

まず日本における文化人類学の教科書を比較してみた。日本における標準的な教科書って一体なんだろうと考えると意外にこれ一冊で完全というのは少ない。そもそも一つの学問分野の構成を概観するというのは非常に難しいことではあるし、学問は日々どんどん細分化し進化している。結局、項目的に広く押さえているものとして、祖父江孝男の『文化人類学入門』(初版1979、増補改訂版1990)が一番、網羅的であるということがわかった。

祖父江孝男 『文化人類学入門 増補改訂版』 中公新書 1990(初版1979の目次立てによるAE5冊のテキストの目次・内容の比較表 筆者作製(2005

<元のHPを参照ください。http://homepage1.nifty.com/arukunakama/r007.htm >

ここでは、この詳細にたちいることはさけたい。ただ言えることは、これらのオーソドックスな教科書からは、なかなか現在社会と切り結ぶ文化人類学というところまでなかなかたどり着けないことだ。

したがって、特に、これから文化人類学の世界に触れようとする初学者の人については、上述の祖父江『文化人類学入門』と、1990年以降の研究の成果を知るためのショートカットとして、以下のキーワード集を手元に置くことをお薦めしたい。 

山下晋司・船曳建夫編 『文化人類学キーワード』 有斐閣 有斐閣双書KEYWORD SERIES 1997

綾部恒雄編 『文化人類学最新術語100』 弘文堂 2002

2. 開発の人類学を正面にだした論文集

 ここで、「開発人類学」、「開発の人類学」をタイトルにした論文集を概観する。

 岩波講座 『開発と文化』 岩波書店

 青柳まちこ編 『開発の文化人類学』 古今書院 2000

 足立明「経済2 開発現象と人類学」 米山俊直編 『現代人類学を学ぶ人のために』 世界思想社 1995

 前川啓治 「開発の人類学」 綾部恒雄編『文化人類学最新術語100』 弘文堂 2002

→参考文献 前川啓治 『開発の人類学―接合から翻訳的適応へ』 新曜社 2000

 Gardner, K and D. Lewis, Anthropology, Development, and the Post-Modern Challenge, London: Pluto press, 1996

 栗本英世 「開発と文化-開発は誰のために行われ、その社会・文化的影響は難だろうか」 山下晋司、船曳建夫編 『文化人類学キーワード』 有斐閣双書 2001

→参考文献 岡本真佐子 『開発と文化』 岩波書店 1996

佐藤幸男 『開発の構造-第3世界の開発/発展の政治社会学』 同文舘 1989

玉置泰明 「開発と民族の未来-開発人類学は可能か」 会田・大塚和夫編 『民族誌の現在』 弘文堂 1995

結局、日本では、系統的な『開発人類学』の教科書は、まだまだ確立していない発展途上であることがわかる。開発援助の現場からの声を反映しているものは、ほとんどないといってよい。以上のうち、実は、青柳編(2000)および岩波講座『開発と文化』については、その掲載論文を全部読破したわけではない。特に、岩波講座に至っては、1巻しか所有していない。当然、日本にいれば図書館なども活用して全巻の内容を最低でもレヴューすべきなのであるが、20044月より海外駐在のためそれもままならない状況である。

したがって、これ以上、日本の文献のレヴューが物理的にも不可能であるため、ここで、一旦、筆を置くこととする。(2005531日)

2007218日 加筆分

3.マニラ駐在による制約条件と今後の考察方法について

前回、上記のところまで書き進んだところで、筆が止まってしまった。これからどうか続けていくのか、日本語ではあまり参考になる教科書がないということだけで、この項を切り上げてしまっていいのだろうか。

言い訳になるが、マニラ駐在の私は、日本での出版状況に関しては年に2,3回の一時帰国の際に、主に東京の大型書店(新宿 紀伊国屋本館および南館、八重洲ブックセンターなど)を駆け足でチェックしているに過ぎない。朝日新聞の読書欄や業界紙『国際開発ジャーナル』などをチェックしているとはいえ、最低でも手にとって中味を検証できないかぎり無責任なコメントはかけない。

ほぼ1年半経つが、あまり有用な情報を書き加えられそうにないので、一旦、ここでHPにアップロードすることにする。

ただし、私自身の整理として以下の作業は引き続き行いたい。

1.欧文(主に英語になってしまうが)の基本的な教科書の内容と援助業界における人類学の適用状況の確認。ただし、これだけで大きな作業となってしまうので、主に日本人で学説史みたいな整理を試みる方がいるとしたら、ぜひ、その知見を参考にさせていただきたい。

⇒ そのような研究動向の確認と紹介を行うこととする。

2.開発人類学のすべての側面を取り扱おうとすると膨大な作業となってしまうので、当面、私自身が目指そうとする「開発民俗学」の理論的な枠組み(前提といってもよい)を構築するのに参考となるであろう主に日本の民俗学、地域研究、社会学、経済学、環境学などの到達点の整理を行う。これには、歴史学など周辺領域にも目を配ったものとしたい。

その際に、できるだけ具体的な分析・論証を行ったものを中心に検討し、形而上学的なものは必要ないかぎり取り上げない。視野にいれないという意味ではないが、実践の学問である「開発民俗学」においては、抽象的な理論や精神論はとりあえずおいておきたい。再現可能であるとまでいわないまでも、誰もが具体的に想像や理解できる、いわば‘事実’や‘もの’に基づいた論考の方が面白いし、理論的にも応用の幅が広いと考えるからである。

⇒ そのような問題意識にたって、いわば100冊の本のような開発民俗学の基礎理論を支えるような論考を取り纏める。今の段階では、日本人の研究者の到達点を明らかにすることを目標とする。つまり、原則、日本語の本ということになるが心配するなかれ、良質の研究者は当然、彼・彼女の対象分野の欧米の学説はきっちり押さえているので、博士論文クラスの研究書なら、それなりのレファレンスがついているので、初心者がいきなり億兆の欧米のいわば洋書にあたる必要はない。

また、当然のことながら同時に良質な翻訳書も取り上げる。翻訳には翻訳のよさも問題点もあるのだが、まず手っ取り早く相手(欧米の研究者)にタックルするのなら、翻訳書の数をこなして、欧米の研究者の問題意識に向き合うことが肝要であると考える。

という方針で、今後の考察(注1)を進めたい。ただし、‘歩きながら考える’および‘開発民俗学 雑記’においても同じようなテーマに触れたものがあるので、注2に紹介したい。

(この項、了)

注:

1.当初、第7講で扱う予定であったブックガイドは上記の理由により、「第8講 ‘開発民俗学’を考える100冊 (道具箱=ブックガイド)」ということであらためて取り上げる事としたい。

2.タイトルとリンクは以下のとおり。実は、このHP全体が同じテーマで記載されています。特に、“歩きながら考える~世界と開発~”のコーナーには関連する記事は多いので、関心ある方は、その目次を参照ください。

http://homepage1.nifty.com/arukunakama/n000.htm

関連1 ひとりNGOの勧め -ODA50周年に寄せて- (2004101日)

     (歩きながら考える024http://homepage1.nifty.com/arukunakama/n00024.htm

関連2 われわれの物語を紡ぐために: 文化人類学への問い。(200573日)  (歩きながら考える028-1http://homepage1.nifty.com/arukunakama/n00028.htm

関連3 文化人類学の1990年代を振り返る  (2005年7月3日)

     (歩きながら考える028-2http://homepage1.nifty.com/arukunakama/n000281.htm

関連4 ブームの宮本常一?  (200641日)

     (歩きながら考える030http://homepage1.nifty.com/arukunakama/n00030.htm

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